中々に厳しい試合になってしまいました。何が厳しかったかというと、鹿島が自分たちの取り組んでいるスタイルを真正面からぶつけにいくような戦い方をしていたがために、余計にその完成度の未熟さが際立ってしまったことです。引き分けは試合展開的には妥当な結果だと思いますが、勝つことを考えたらもうちょっとやりようがあったように思いましたし、そもそも終盤戦で残留を争うチームにホームで引き分けが妥当で終わってしまう完成度はやはりよろしくないと思います。
認知の遅さが目立つ理由
試合を振り返ると、通して気になったのは鹿島の選手たちの認知の遅さです。スペースがある、フリーになっている選手がいるのに、そこを使うことができない。タイミングを逃してしまうと次の展開は消えてしまい、もう一度やり直すことになってしまう。そうこうしているうちにどんどん追い込まれて、成功率の低い局面にチャレンジせざるを得なくなっていく。これでボールを奪われて相手のターンになってしまう、というのが特に前半は何度も見受けられました。
認知が遅いことの原因は色々あると思います。個々のクオリティの問題、相手の強度が高いこと、トレーニングでその辺りを十分に鍛えられていないことなど。ただ、この試合で私が一番よくないと思ったのは、相手の狙いどころをチームとして共有できていないように見受けられたことです。
柏は前線から積極的にプレッシングを仕掛けるチームで、特に前の4枚はかなり高い位置を取ってきます。ただ、チーム全体としてはそこまでハイラインを敷いているわけでもありませんし、極端にボールサイドに圧縮するわけでもありません。そうなると、前に出ていく選手たちとそうでない選手たちとの間にはスペースが生まれることになります。柏の場合、特に空くのはサイドハーフとサイドバックの間のスペース。ここを上手く使うことができれば、相手にしてみればアタッカー陣と柏守備陣との崩しの勝負に持ち込むことができますし、柏にしてみれば今季はこのスペースを使われてピンチになり、失点するケースが少なくないです。
鹿島の前線を考えるに、柏の守備陣に対しては強度の優位性を示そうなマッチアップだっただけに、スペースを上手く使って勝負を仕掛ける回数を増やしたいところでしたが、鹿島が柏のスペースを初めて上手く活用できたのは前半40分がようやくでした。40分のシーンは、早川から左サイドでボールを引き取ったピトゥカが素早く中央の佐野に預け、佐野からスペースにフリーでいた樋口に渡せたもの。樋口は前を向ける時間があり、垣田への縦パス。垣田がトラップミスで攻撃は繋がりませんでしたが、キープや落としが決まっていれば、PAのすぐ近くということもあり、シュートチャンスに繋げられる可能性が高い位置でした。
逆にそれまでのシーンはそのスペースに誰かしらが立っていても、ボールホルダーがそれを認知できていない、周りもそのスペースを使う意識が低い。なのでボールが届かないシーンが多く、届いてもボールホルダーをサポートする味方は誰も近くにいないのでノッキングしてしまうのがほとんどでした。こういう部分で問題が発生しているのは、選手たちのクオリティ不足というよりも、そこが相手のウィークポイントなので狙っていきましょう、という認識がトレーニングの段階からきちんとチーム内に浸透していないんだろうなという風に思います。
チームとして狙いどころを共有できていないので、鹿島としては自分たちのストロングか今までやってきたことを素直にぶつけるしか、選択肢がありません。だから、鈴木や垣田にシンプルにロングボールを蹴って収めてもらうのを期待するか、狭いエリアに突っ込んでいてボランチや2列目の個々の連動性の高さで局面打開をするか、の2択になってきます。ただ、どっちも確率的にはかなり低いと言わざるを得ない方法です。この試合でも鈴木や垣田の調子がイマイチだったために期待値ほどボールを収まらなかったですし、相手の強度が高くなっている中央をキレイに崩すという難しいチャレンジを難なく乗り越えられるほど、今の鹿島のスタイルの完成度は残念ながら高くないというのが、前半シュート1本という結果に現れてしまっています。
前提が崩れるが故に生じる齟齬
攻撃、特に組み立ての部分が上手くいくことを前提に今の鹿島はスタイルが構築されているので、組み立てが上手くいかないと途端に守備や攻守の切り替えの部分にも齟齬が生じてきてしまいます。
守備は低い位置でボールを奪っても、そこから組み立てていけばチャンスを作れますよ、という前提で構築されています。なので、守備ではまずゴールを奪われないことが最優先され、そのために最も危険な中央に圧縮して守備ブロックを形成し、裏を取られたくもないので最終ラインはあまり高く設定しません。ハイプレスもいけたらいく、ぐらいの感覚です。なので、相手に大外を使われると、サイドハーフの選手が低い位置まで戻る必要があります。そこでボールを奪っても、相手ゴールまでは距離があります。距離があるけどどうします?→組み立ててボールを繋ぎながら相手ゴールを目指しましょう→組み立てが上手くいきません→チャンス作れません→ゴール奪えません、の負のループに現状では陥ってしまっています。
攻守の切り替えでもそうです。守備から攻撃に切り替える時は、先程も触れたようにそもそもボールを奪う位置が低いので、ショートカウンターの機会が圧倒的に少ないです。なので、選択肢はポゼッションかロングカウンターに絞られているのですが、ポゼッションは完成度がまだまだ低い、じゃあロングカウンターは?となると、アタッカーの構成をポゼッションが上手く成立するように助けになるメンバーを起用しているので、独力で相手を剥がしてボールを運んでくれるような選手がそもそもピッチに立っていないことが多いです。なので、ロングカウンター一本でチャンスを作るのは、お互いがオープンになる試合終盤に限られてしまっています。
攻撃から守備に切り替える時でも、本当は即時奪回を目指して、すぐさまゲーゲンプレスに移れる状態が理想なのですが、そもそもゲーゲンプレスを仕掛けられる態勢が整っていないことがほとんどです。ピッチを広く使おうとして個々の距離感が広いことも影響していますし、ポジショニングに規則性を持っていないで良くも悪くも自由に動いてパスコースを作り出す作業をしているので、奪われた時に自らボールを持っているのでポジションをコントロールできる状況なはずなのに、個々のポジションがコントロールできていない→ボールの周りにプレスに移れる十分な人員がいない、という現象が起こり、結果として自陣を固めることを優先せざるを得ないので、どんどん相手ゴールからは遠ざかってしまうという負の連鎖になってしまっています。
パンチの打ち合いで浮き彫りになる課題
前半押し込まれた中で後半に盛り返せたのは、前半よりもオープンになったことと、シンプルな縦パスが増えたことが要因だと思います。そうした展開で活きる松村が入り、サイドバックも前に自ら持ち上がっていける佐野になったことも、それを後押ししました。押し込めた中でチャンスもいくつか作れましたし、それを決めることができれば狙い通りなのでしょうが、この日の鹿島は決め切れず。そうなると、攻撃の狙いや設計が問われてくる展開になってくるのですが、そこの部分の甘さが目立つ現状では中々再現性を見出すことができませんでした。その状況でもゴールが1つは奪えたと受け取るべきなのか、1つしか奪えなかったと受け取るべきなのか。また、柏にとってはせっかく先に点を取れたのにその状況の鹿島相手に守り切れなかったというところに、今のチームの問題点が浮かび上がっているように思えます。
鹿島としては再現性を持って相手をサンドバックにしたかったところでできなかったので、パンチをお互いに打ち合う展開になります。柏の先制点はそれが先に決まったということですし、鹿島の同点ゴールはそれに打ち返すことができたということでしょう。失点シーンは、責めることはできないのですが、植田と昌子の2人なら不利な状況でも止めてほしかったなと思う部分はあります。特に昌子はマテウス・サヴィオがトラップでちょっと詰まった段階で、良い時の昌子ならすぐさま詰めて選択肢を削ることができる、なんならボールを獲り切ってしまえるのですが、抜かれないために間を取ることを選んだあたりに、パフォーマンスが戻り切ってないことが窺えてしまいました。
まとめ
今の鹿島は、何のために戦っているのか見えづらくなっているなと正直思います。もちろん、局面局面では勝つために全力を尽くしていますし、目の前の状況をどう解決するかどう乗り越えていくか、というところに取り組んでいるのはわかります。モチベーションが低いわけではないかと。
ただチームとして、戦いの末に何を積み上げていくのか、何を目指していくのか、というところは優勝の可能性が消えてから特にぼんやりしてきているように思います。一つでも上の順位を目指すために何が何でも勝点3を狙いにいくのか、自分たちの取り組んできたことを少しでも多く表現したいのか、来季に向けての光明を見出したいのか。そこのテーマが曖昧なので、勝ったから何を得られるのか、残り試合を通じて何を見せられるようにしたいのかが分かりにくく、上手くいこうともいかなかろうとも「まあこんなもんだよね」というある種の諦念がピッチの内外からも雰囲気として伝わってきてしまっていると、正直ここ数試合は感じざるを得ません。得るものと失うものが曖昧なので、試合に懸ける価値が下がってしまっているのです。
この試合でも19,000人を超えるファン・サポーターが来てくれているので、興行としてはそこそこ上手くいっているんだとは思います。ですが、この諦念が情熱の火の温度を下げる存在になりつつあるとなると、その火の温度をもう一度上げるのはものすごく大変なことですし、ひょっとしたらもう戻らなくなるかもしれませんし、そうなると鹿島というクラブとして大事なものを失うことにも繋がりかねません。
正直、優勝の可能性が潰えた後の鹿島は明らかに目標設定をミスっていると思います。残り2試合となった今、もう1回そこは再定義してほしいです。どんな結果で終わろうとも、そこに向かう姿勢こそがクラブの根本を担う原動力となるはずなので。